新作映画『君の見る世界をなぞる』レビュー"16歳男子のもがきが痛すぎる"
そんな16歳男子のひと夏の痛い青春を描いた物語、8月21日公開の新作映画『君の見る世界をなぞる』を紹介しよう。

『君の名前で僕を呼んで』を連想

映画『君の見る世界をなぞる』
ティーンの主人公と、ちょっと大人の男性との間に生じる化学変化にフォーカスしたストーリーラインは、日本でもBLファンを中心にヒットした2017年の映画『君の名前で僕を呼んで』を思い起こす人も多いだろう。
主人公の名前でもある原題『ENZO』に『君の見る世界をなぞる』という邦題をつけたのは『君の名前で僕を呼んで』に近い世界観を連想させるマーケティングとしては大正解。
たしかに主人公のセクシュアリティが明確には定義されない描き方は『君の名前で僕を呼んで』と類似点を感じるところ。
特に今作は主人公の年齢が16歳ということもあり、自分がゲイなのか、バイセクシュアルなのか、それとも他の何か(今時の若い世代ならクィアと自称するかもしれない)であるのかは、当のエンゾ君ですら理解できていないと思わせる。
私たちが生きる現実と地続きの物語

映画『君の見る世界をなぞる』
舞台は現代の陽光きらめく南フランス。
共働きの両親(エンジニアの母と教師の父)と優秀な兄と豪邸に住む主人公だが、勉強は苦手な落ちこぼれ。美術の才能の片鱗を見せるも、本人はその世界に進むのは拒んでいるのか、自分の才能に自信が持てずに尻込みしているのか。高校を中退して、職業訓練校に通いながら個人宅の建築現場で下働きのバイトに明け暮れる日々。その建築現場にウクライナから出稼ぎに来ている野生的な雰囲気の青年ヴラドと親しくなっていく。
1983年の北イタリアを舞台にした映画『君の名前で僕を呼んで』は、完全なファンタジーとして現実と切り離して没入できる作品。
ところが今作はまさに私たちが生きている現代が舞台であり、ウクライナ戦争という現実が物語の根底にある。
この点においては、奇しくも『君の名前で僕を呼んで』と同年に本国で公開されたイギリス映画『ゴッズ・オウン・カントリー』との類似点を感じさせる。『ゴッズ・オウン・カントリー』には英国における東欧からの移民問題が物語の根底にあったのだから。
16歳の”あがき”に己を重ねる

映画『君の見る世界をなぞる』
近年話題になったゲイとテーマにした2本との類似点があるとはいえ、今作の主人公の年齢設定はもっとも若い16歳。
愛情あふれる両親の庇護の下、豪邸でぬくぬくと暮らしながらも、優秀な兄に対するコンプレックスを抱え、エンジニアの母親より収入が低いと思われる教師の父に対する軽蔑心と嫌悪感を抱いてしまう。
成長しきった大人から見れば、甘ったれのどうしようもないガキだと思えて。しかし、自分が16歳の頃を思い出せば、主人公のエンゾ君に対する印象が大きく異なってくるはずだ。
ガキ扱いはされたくない。しかし、大人であるはずもない。自分に何がしたいのか、できるのかも分からず、自信をもてる根拠もない。そんな悶々とした状態の中で、家族ではない身近な年上の男性を、その実像以上に素晴らしいと勝手に思い込み、強烈に憧れ、崇拝すらしてしまう。
大人になった今から思い返せば、当時はとんだ子供だったと一笑に付せるようなことも、渦中の16歳にとっては大問題。
家族にも、職場にも、ウクライナから来た青年ヴラドにも迷惑をかけまくるエンゾ君。つきはなして見れば共感できる部分が著しく低いのだが、自分の若い頃を重ねてみるとエンゾ君のどうしようもない”あがき”の痛みが伝わってくる。
かくいう私は、自分が若い頃にしでかした数々のことがまざまざと蘇ってきて、エンゾ君にすっかり感情移入してしまった。
ゲイがテーマである物語だが、主人公が16歳の未成年なので、性的な描写はほぼない。直接的な描写が苦手な方も、リラックスして楽しんでいただけること確実。
小規模公開なので、スクリーンでご覧になりたい方は早めにお近くの劇場で鑑賞されることをおすすめする。

『君の見る世界をなぞる』
2025年製作/102分/PG12/フランス・ベルギー・イタリア合作
原題:Enzo
配給:樂舎
劇場公開日:2026年8月21日
公式サイト:https://enzo-movie.jp/
公式Xアカウント:https://x.com/enzo_movie_jp
予告編:https://youtu.be/jP8bOTzjdFQ?si=9hKh2ejJZwrNwEnE
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